2023年10月29日。第8回水戸黄門漫遊マラソン(以下水戸)。
今年4月から年内のターゲットレースに据え、(文字通り)仕事そっちのけでトレーニングに取り組んできた。アップダウンが激しくレース最終盤41km地点に斜度10%の激坂が待ち受ける難コースの水戸をターゲットレースに選んだのには理由がある。
一つは時期。これは去年の10月末水戸→翌年1月末勝田全国マラソンへの流れで確認していて、翌年2,3月に特A級ターゲットレースを入れる場合、10月にフルマラソンを入れると間を3ヶ月とれる。3ヶ月あればしっかり休養でき、10月に出た課題を克服するのにも十分な期間がある。
2つ目はエントリーが容易であること。水戸は先着順でエントリーが決まるがエントリーが殺到する超人気レースではなく、同時期に横浜や金沢もあるので人気が分散され、エントリー期限さえ忘れなければ確実にエントリー可能。トレーニングスケジュールが組みやすい。
3つ目はコース。水戸は給水ポイントがほぼ3kmおき15箇所と多く脱水による足攣り率90%以上の自分には都合がいい。昨年も出たが十分給水でき足攣りせずゴールできた。そしてコースを知っているというのが最大のアドバンテージ。愛読するジョジョの奇妙な冒険第六部「ストーンオーシャン」のラスボスであるプッチ神父の有名なセリフにこんな一節がある。
これをマラソンに例えるなら
たとえば、数日後のマラソンで何が起こるのか?参加者全員がそれを知っている
加速したマラソンの旅で、自分がいつ足攣りにあい、いつエネルギー切れになり、いつ脚が尽きるのか?すでに体験してここにきた〜 略 〜
悪い出来事の未来も知ることは「絶望」と思うだろうが、逆だッ!
明日「死ぬ」とわかっていても「覚悟」があるから幸福なのだ「覚悟」は「絶望」を吹き飛ばすからだッ!
コースの難所やポイントをわかっていることは覚悟があることと同じッ!
「『覚悟』は『絶望』を吹き飛ばす」のであるッ!
(つまり対策立てやすいですね)
そういうわけで水戸をターゲットにした。
前置きが長くなったがまだ続く。
次に事前に立てたレース戦略について。
レース戦略
戦略と言っても端的に言えば「誰かをペーサーにして引っ張ってもらう」しかないのだがそれだけでは味気ないのでそれ以外のことをもう少し説明したい。
戦略1 時計の活用
昨年の水戸を走った経験から、愛用の時計Polar Vantage V2では総距離が約500m多く計測されてしまうことがわかっていた。つまり時計で計測の距離やペースは当てにならないということである。これは多かれ少なかれどの時計にも当てはまる。ではどうすればいいか?頭をひねって絞り出した結論は「ラップタイム機能を使うこと」。
賢明な読者諸君なら一瞬にして察したと思うが一応説明しておくと、インターバル機能で設定ラップタイムが来るとアラームが鳴るように設定している。例えば自分の場合だとターゲットタイムを3時間9分30秒に設定したので3kmだと13分28秒。つまり設定ペース通りに走れば13分28秒毎に3の倍数の距離表示(3,6,9,12km...)を通過することになる。沿道には必ず距離表示があるので見ながら走る。
例えば3kmポイント通過時にラップアラームが鳴ればちょうど設定ペースで走れていることになる。以降も3の倍数のポイントでアラームが通過後に鳴れば設定ペースに先行、通過前なら遅れている。時計の距離やペース表示に惑わされることはない。10秒遅れたとしたら逆に自分より10秒前の人たちが自分の設定ペースで走っていることになるので次の3kmかけてその人達に追いつけばいいことになりわかりやすい。
想定ラップを3km毎にしたのは42kmが3の倍数であることが一つ。二つ目に遅れが発生した場合、1kmだと忙しなくペース調整が必要だし5kmだと長過ぎて逆に遅れを取り戻すのが手遅れになる可能性がある。これを踏まえると想定ラップを3kmとするのがちょうどいいように思えた。
戦略2 補給の工夫
これは前回の勝田全国マラソンから取り入れているがエナジージェルの封をいちいち切るのが煩わしいのでジェルを水に溶かしてマグボトルに入れて走るというもの。トレイル界のアイドルおじさんこと、ガチオさんもこの方法を取っている。ジェルを切る手間がなくなるし一緒に水も補給できるので脱水しやすい自分には一石二鳥。ジェルの封を切るのは両手が塞がるしうまく開かなかったり手についてベトベトしたりと結構なストレスになるがこれが全部クリアできる。腰部分に装着することになるので重みが苦手じゃなかったら強く推奨したい。(ただし今回はカフェイン入ジェルだけは別で携帯した)
参考:8km地点 マグボトルを腰に挿して走る著者(見つけて)
戦略3 コースの対策
去年走った記憶だけでは心もとないのでYoutubeにアップされてる動画で復習した。坂が来るポイントをなんとなく把握しておくことと前回の記録を見て特に以下3点に気をつけた。
22-30km 平坦な道だが逆にメリハリなくリズムが単調になって去年ペースを落としてしまったのでできるだけ集団に入ってペースを保つ。
33kmからの偕楽園〜千波湖は道が狭く曲がりくねっているので走りにくい。無理に抜くと消耗するので誰かの背中についていくようにする。
39-41km 梅香トンネルの下りから激坂直前の平坦な道。激坂でペースが落ちるのでここで貯金を作っておく。
Setagaya Jiroさんには(Youtubeで)非常にお世話になっている
こんな感じで事前対策を立てた。
ターゲットタイムはPBとなる3:09.30(これまでのPBは2021年11月ぐんまマラソンの3:15.08)。3:10切りが目標だけどぴったりに設定したら余裕がなくなったとき怖いので30秒のバッファを作った。目標タイムは水戸1ヶ月前の高島平ハーフマラソンと1週間前のMK DISTANCE 5000mの結果を根拠に達成可能な目標として設定した。目標設定で大切なのは「走りたいタイム」と「適切なタイム」を混同しないことだと思う。走りたいタイムが適切な目標とは限らない。
事前準備でただ一つミスったのは上野からの特急チケットの予約が遅れて水戸駅到着が8:05になってしまったこと。去年は前泊してたので時間たっぷりに準備できたが、今回は水戸駅着8:05、整列開始8:10、スタート9:00なのでトイレ行って荷物預けてアップしたらすぐに並んでも8:30は過ぎていてブロックのかなり後方になる恐れが高い。できるだけ早めに目標ペースが同じ集団を見つけたいのでブロックの最後尾は結構つらい(去年は8:40に並んだら寿司詰めでブロック最後尾から動けなかった)。
レース当日
前日はできるだけ早めに寝ようと試みたが高ぶってるのかほとんど寝付けずに朝を迎えた。レース前はよくあること。都内は雨で寒かった。水戸の天気予報を見ると8-10時で雨予報。あれだけ対策考えてたのに雨のことを全く考えてなかった。予定通り出発し6:44上野発ときわ39号に乗車。ランナーしかいない車内。少し仮眠してから車両間の空きスペースでストレッチ。水戸に着いてからはウォーミングアップに十分な時間が取れなそうなので移動中にできることはやっておきたかった。なぜか他にストレッチしてる人はいなかった。トイレも行っておきたかったが車内のトイレは長蛇の列でやめておいた。
やっと水戸につくと雲が立ち込めているが幸い雨は降っていなかった。まずは事前に穴場と見込んだ三の丸ホテルのトイレに直行したが(大は)20分近く待ってしまいいきなり超タイムロス。もう荷物預けて並びに行くことにしたけどなんと荷物預けも最後尾が見えないほどの超長蛇の列でここでもタイムロス。結局アップはほとんどできず荷物預かりから自分のBブロックまでの1kmを少しジョグしたくらい。整列は去年と同じく8:40になってしまった。けど幸いだったのは去年ほどブロック内が混み合ってなくブロック真ん中まで行けたこと(まだ荷物預けに並んでる人が多かったのかも)。
そしてスタートを迎えた。
レース
実際は3km毎のタイムで設定との差を測ってたけど公式記録と比較できないので5km毎のタイム差で比較していきます
スタート〜5km
スタートしてからは混み合っていてなかなか自分のペースでは走れなかった。早いとこ目標ペースくらいの集団をみつけたいけど人が多すぎてまだそんな段階では全然なかった。無理に抜いていくと消耗するので焦らず最低限のペースを心がけた。スタートで会ったあやおさんが「サイラス練のコガくんが3:10ペースで走るよ」と言っていたのでとりあえず探すことにしたが全然見つからなかった。
5km通過 想定0:22.27 実際0:22.57 タイム差 +30秒 ※ネットタイム
5〜10km
徐々にバラけてきてペースが上がった。6kmくらいでPTCキッシーさん発見。そしてその前に念願のコガちゃん発見!さてさてついていくか〜後は何も考えず付いていくだけと思いきや、なんとコガちゃんは3.5ペースで走ってるとのこと。残念ながら一緒に行けずさらに前を目指すことになった。まだペーサーになるような人はおらず無理は禁物だが早めに目標ペースの集団に入りたいのでもう少し頑張ることにした。
10km通過 想定0:44.54 実際0:45.13 タイム差 +19秒
10〜15km
この辺りからいい感じで走っている人をペーサーにして走っていけるようになった。特に小柄な黒ウェアの女性(多分年上)とNIKEキャップの男性が良い感じで背中につかせてもらうとしばらくして借金を完済。想定タイムとほぼ同じで走れるようになった。そしてどうやら念願の同じ目標ペースの集団で走ることに成功した。
15km通過 想定1:07.21 実際1:07.20 タイム差 -1秒
15〜20km
引き続き集団で走る。小柄黒ウェア女子とNIKEキャップ男子も一緒。他にはトライアスロンぽい男子、派手なウェアのちょんまげ男子など10名程度で集団を形成。特にトライアスロン男子は安定しててしばらく背中を借りることになった。アップダウンの前後で集団がバラけることもあったがしばらくするとおなじみのメンツが近くにいた。集団のペースは快調で少しずつ貯金ができ始めた。
20km通過 想定1:29.49 実際1:29.39 タイム差 -10秒
20〜25km
ここのポイントはハーフ付近の陸橋往復ゾーン。ここは陸橋上り下りでペースが安定しないのと道幅が狭いので走りにくい。集団が細長くなったが目印のトライアスロン男子についていくことだけを心がけた。安定してるトライアスロン男子がありがたい。
ハーフ通過 想定1:34.45 実際1:34.33 タイム差 -12秒
ハーフを通過してもまだ余力は十分。23kmで足攣り対策の芍薬甘草湯を予防的に摂取。すると小柄黒ウェア女子が飛ばして先にいった。他にもペースを上げる人がちらほら。脚も心肺も行こうと思えばペースを上げられる感触。だけどすごく迷った。今日の目標は3:10切り。今でも貯金ができているペースなんだからこのまま維持でも大丈夫なはず。だけどここから30kmまでは事前に警戒してた平坦単調ゾーンで独走となる方がリスクかもしれない。するとトライアスロン男子、続いてNIKEキャップ男子も行った。覚悟を決めてついていくことにした。覚悟は絶望を吹き飛ばすのだから。
25km通過 想定1:52.16 実際1:51.44 タイム差 -28秒
25〜30km
ペースを上げる集団についていくが余力はまだまだ問題なし。いつもはもう脚が攣っているのでやはり水分をちゃんと取れていることがとてつもなく大きい。集団はいつメンもいるが少しずつ入れ替わっている。NIKEキャップ男子は少し前に飛び出していった。黒ウェア女子はまだここにいる。トライアスロン男子とちょんまげも一緒。偕楽園に行くまではこのメンツと一緒に行った。
30km通過 想定2:14.43 実際2:13.56 タイム差 -47秒
30〜35km
30km過ぎの大きな下りと上りを終えると偕楽園が見えてきた。ここから千波湖周回は事前に注意してたポイントの一つ。道が細く曲がりくねって無理して抜くと消耗が激しい。そして偕楽園に突入した途端、集団は解体。単独走になりそうだったが後ろから抜いてきたおじさんにうまくついていくことに成功(この人には梅香トンネル入口までついていった)。ペースを落とさず走れたがこの辺から少しずつ疲れを感じ始め、1つ目のカフェイン入りメダリスト(コーヒー味)を摂取した。今まで食べたことなかったけどコーヒーゼリーみたいで甘すぎず美味かった。
35km通過 想定2:37.11 実際2:36.24 タイム差 -47秒
35〜40km
やっと千波湖周回を終えようかという36km。ついに来た。左脚が攣る。が、完全には攣らずビクンッとなっただけ。今まで攣っても攣っても走ってきた。勝田ではハーフ前に両脚攣ってもその後の15kmを4:40/kmで走った。今回もだましだまし完全には攣らないように行くしかない。こんなこともあろうかと芍薬甘草湯はもう一包用意してきたので飲んだが直後に右脚も逝く。足攣りには効かないと知りつつも最後のメダリストを飲む。回復アイテムはもうない。
千波湖後の陸橋の緩い上りが地味に辛い(後でログ見たら橋でキロ5まで落ちてた)。もうすぐ名物梅香トンネルのパリピ空間で下りで爆走できるはず!ガマンガマン!両脚はずっとビクンビクンしてるけどなんとかトンネル前の上りをクリアして梅香トンネルに突入した。
暗がりに光るペンライトの帯。興奮気味の中高生の声援。脚は攣ってても自然と気持ちは上がる。気持ちいい下りは脚も節約できそうな気がした。すると右から新たなお姉さんがいい感じで抜いてきたので後ろにつかせてもらうとすぐに39kmを迎えた。ほぼ同時に鳴るアラームは貯金がなくなったことを示唆していた。35kmまで40秒以上あった貯金を足攣りによるペースダウンで全部吐き出してしまったのだった。
40km通過 想定2:59.38 実際2:59.36 タイム差 -2秒
38km地点声援に力なく応える著者(左)と偕楽園からお世話になってるおじさん(右)
先生の奥さん撮影
40km〜Finish
トンネルを抜けると平坦な道になった。ここは事前想定ポイント激坂前最後の平坦エリア。激坂前にここで貯金をつくっておく必要があった。脚は攣ってるけど行くしかない。さっきのお姉さんとはここでさよなら。あと2.195km。駒沢1周分!いつも最後の2.195kmは普段から走ってる駒沢公園の1周分だけだと思うようにしてる。
脚は相変わらずだけど抑え込めてる!貯金を作るんだ!!ちょうどいい感じに千波湖でお世話になったおじさんが再び登場したのでついていくとちょっとだけペースを上げられた(後でログ見ると瞬間的に4:20/kmくらいで行けていた。)
そして41kmで例の激坂を迎える。力尽きたのかおじさんはいなくなったがもう他人は関係ない。貯金はできただろうか?さっきから時計は見ていない。脚もきつい。呼吸もきつい。登り切ってもゴールまではあと800m。ここで果てるわけにはいかない。激坂の頂上付近には茨城に来るとお世話になる奥久慈の先生と先生を通じて知り合ったイセヤマさんが声をかけてくれた。
「がんばれ!」
2人とハイタッチして気合が入る
なんとか登りきる
残り800m
あとは爆走あるのみ
攣ってる両脚は相変わらずだけどそんなこと構ってられない
行くしかない
3:10切りに足がかかってるんだ
とにかく進め
最後のコーナーを回ると遠くに見える「FINISH」の文字
42kmのポイントが迫る
42kmの30m手前
ここでアラーム
少し遅れたか
バッファで30秒確保してるからまだ60秒近くあるはず
200m 60秒!
まだいける!
「ひでくんがんばれ!」
沿道から先生の奥さんの声援
さっき千波湖から見てくれてたのにこんな短時間でゴール前まで来れるのかな?
(ほんとにこんなこと考えてたので我ながらすごい)
迫るFINISH
迫る時間
ゴール前の大きなSEIKOの時計が3:10に変わる
あれはグロスだから大丈夫!
あと何秒ある?
あと20m!
ここでこの日一番の攣り
姿勢が保てない
今までで一番長い、たった20m
次の瞬間
今までで一番不格好なゴールを遂げたのだった
Finish時間 3:09.45 (想定3:09.30 タイム差 +15秒)
ゴール直前ひどい足攣りでバランスを崩す著者(先生の奥さん撮影)
レース分析(少し)
ゴール直後は安堵感というよりしばらく時計を見てなかったので10分切りできたかなという不安のほうが強く、時計を見て初めてうれしさが込み上げてきた(切っててよかった!)。
改めてレースデータを見ると心拍数がゾーン4と5を行き来していて閾値ギリギリを攻めていたらしい(レース中はまったく心拍数を見てなかった)。そしてタイムは想定から+15秒。念のためバッファで30秒見ておいたのがまさか最後の最後に効くとは…。
終わってから考えると事前の目標設定が適切だったことと、レース中は終始ペースを乱さずもっと行けるかもという気持ちを我慢してほぼイーブンペースで走れたことが目標達成の最大の要因だったと思う。前後半のハーフのタイムはほとんど差がなく、後半は36km過ぎに両脚攣って、41kmで激坂もあったにしては相当粘れた。事前の戦略もペース配分もうまく行って会心のレースだった。
前半 1:34.33(4:28.9/km) 後半 1:35.12(4:30.7/km)
無意識に黄色と赤のギリギリを攻めていた(上段)ペースも安定(下段)
今後の課題
今回のレースに関しては目標設定もレース運びも100点だったと思う。今後は12月にITJ70k(トレイル)、2月に別大(フルマラソン)を迎え、別大が大本命特A級レース。ここでサブ3に挑戦したいと思っているけど達成にはまだスピードがかなり足りてないと感じている。ただ急に速くなることはないしやることは今までと変わらないのでできることを淡々と続けて行きたいと思う。
ゴール前500m とにかく進むしかない著者